四国八十八ヶ所を舞台にした小説10作目になり、これで当初の目標である10冊をクリアしました。
記念すべき10冊目は私史上初のSF小説です。
「巡礼特区:四国八十八ヶ所、最後の空白地帯」

すべてが監視される近未来日本が舞台。すべての国民の居場所が、常に把握されている時代。
四国遍路だけが体制から「消える」ことのできる唯一の場所だった。
多額の借金を抱え、弟の手術のための莫大な費用をも抱えた元遍路宿の女将・芽衣は、追われる青年を結願まで送り届ける裏の仕事を引き受ける。
追っ手との攻防と、自らの過去への対峙。歩くことでしか辿り着けない選択とは。
文字数約101,000字。文庫本1冊の文字数です。
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期間は、2026年9月22日(火)16:00〜24日(木)16:00まで
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通常価格は380円(税込)です。
Kindle Unlimited加入者はいつでも無料で読むことができます。
冒頭の一部を紹介
実際のサンプルはこちらから読めます。
しかし、サンプルを開くのも面倒な人もいるので、サンプルの一部だけですが、紹介します。
第一部 徳島(発心の道場)―志を立てる
第一章
のちに芽衣は、あの朝のことを何度も思い出すことになる。米屋の軽トラが土埃を巻き上げて去っていった、なんの変哲もない朝を。だがそのときはまだ、いつもと同じ、代わり映えのしない一日が始まっただけだった。
午前五時、空はまだ藍色を捨てきれずにいた。橋詰屋の玄関先で、沢渡芽衣は竹箒を握り、敷石の上の霜を掃いていた。息を吐くたびに白い塊が生まれ、すぐに闇へ溶けて消える。冬の鳴門はこの時間、遍路道を歩く人影もまばらだ。
箒の先が立てる乾いた音だけが、しばらく橋詰屋の周りを支配していた。三代続いたこの宿は、一番札所・霊山寺から徒歩十分ほどの場所に建っている。かつては発願の夜、緊張と昂揚を持て余した歩き遍路たちで玄関がひしめき合ったものだが、今は違う。芽衣が掃き終えた三和土には、誰の履物も並んでいない。
壁には古びた木札が下がっている。「本日のお泊まり」――祖母の代からの慣習で、宿泊客の名を毛筆で記す板だ。今は白いままだった。乾いた墨の匂いさえ、もうこの板からはしない。
通りの向こう、県道の分岐に立つ小さな建屋が、白々と明かりを灯している。「巡礼者確認所」。特区の入口を示すその建物は、朝の光の中では意外なほど簡素に見えた。中にいる係員の仕事は、遭難者の有無を確認することだけで、身元照会の権限はほとんどない。それでも、あの一線を越えた瞬間、歩く者たちの位置情報も、生体認証も、すべてが公式の記録から切り離される。橋詰屋は、その一線のちょうど手前に立っていた。俗世と空白のあいだの、最後の一軒。
橋詰屋という名自体は、単純な由来だった。すぐ裏手を流れる用水路にかかる、欄干も傷んだ古い橋のたもとに建っていた、それだけのことだと祖父から聞いている。特区法などまだ影も形もなかった時代からの、ただの呼び名だ。それが今では、県道に境界線が引かれたことで、思いがけず意味を持ってしまった。橋のたもとの宿。渡ってしまえば、もう戻れない橋の。芽衣がその符合に気づいたのは、特区法が施行されてしばらく経ってからのことだった。
板東駅の始発列車が、遠くで踏切の音を鳴らした。芽衣はその音を合図にするように箒を納屋にしまい、帳場に戻った。
* * *
「今朝も空きっぱなしかね」
台所から声がした。節子だった。芽衣の祖母の代から橋詰屋を手伝ってくれている、七十過ぎの女性だ。腰は多少曲がっているが、朝の支度をする手つきに迷いはない。
「二部屋、代参さんの荷物置き場に使ってます。宿泊は、ゼロです」
「あんたの父さんの頃は、二十人待たせることもあったのにねえ。玄関先に布団並べてさ、朝は握り飯を百個作ったもんだよ。今じゃ、握り飯どころか米を研ぐ回数も減った」
節子は鍋をかき混ぜながら、独り言のように呟いた。芽衣は答えず、帳場の端末を立ち上げる。液晶の光が暗い部屋にぼんやりと広がった。
画面には、県が発行する巡礼特区関連のニュースが自動で流れている。「特区保護区域、来年度予算で見直し議論――治安上の懸念、有識者会議」という見出しが一瞬映って消えた。芽衣はそれを最後まで読まずに、業務用の画面に切り替えた。
特区法が縮小されるかもしれない、という話は、もう二年近く同じ調子で繰り返されている。縮小されれば、巡礼路の中でミチシルベの追跡が及ぶようになる。そうなれば、遍路そのものの意味が変わる。橋詰屋のような宿の存在意義も、消える。だが今のところは、噂止まりだ。噂が止まらないまま、客足だけが先に消えていく。それが芽衣にとっての現実だった。
「また同じニュースかい」
節子が茶碗を並べながら覗き込む。
「ずっと同じですよ。決まらないまま、決まったふりだけが続いてる」
「決まったら決まったで、うちらみたいなとこは終わりだけどね」
節子はそう言って、それ以上は続けなかった。何十年もこの土地で商売をしてきた人間には、言葉にしなくても分かることがある。
もう少し読みたい人は、下記のリンクからサンプルをどうぞ。無料です。
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「巡礼特区」まとめ
四国八十八ヶ所を舞台にした小説を10冊出版したので、当面四国八十八ヶ所が舞台の小説は出しません。
しばらく様子を見て、どのような小説が人気があるのかどうかを見極めていきたいと思っています。
それによって、今後どうしていくのかを考えます。
今のところ、「同行、二十八度」の人気が高く、また、私としても一番のお勧めでもあります。
一方で、私としてはお勧めでも、全くの人気のない本もあります。これは残念ですが、需要がないのかもしれません。
それなりに読んでいただけてはいますが、なかなかレビューを書いてくれる人がいません。
なかなか良かったよ、と思った人はレビューも書いてもらえると大変嬉しいですし、励みになります。よろしくお願いします。



























